スイートトラップ


 

 白い雪。冷たくなった身体を暖めるために、人は恋をするという。

 季節は冬―――舞い散る粉雪に彩られた世界で、人は様々な劇を演じる。

 時には喜劇、はたまた悲劇、そして恋愛劇。

 そうして、終り無き劇の終幕を求めて皆、奔走する。

 そう、人は――えーっと――――……

 

 

 ―――ちっ、上手くまとまらなかった。

 失敗。

 

 俺、相沢祐一は、本日のくだらないお題「恥ずかしい詩」を創作しながら校舎を歩いていた。

 いや、正確には本日の寒くて眠くてかったるい授業を終え、帰宅すべく階段を降りているのだが。

 とりあえず、そんなどうでもいい事を考えて得られた結論。

 ―――うむ。とりあえず、俺には文才はないようだ。

 

 っていうか、他にすることないのか。俺。

 そんなことをぼやきつつ、下駄箱まで辿りついた俺を待っていたのは、上履を履き替えるという試練だった。

 

「それは俺に凍え死ねと言ってるようなもんだぞ、小佐」

 

 小佐は誰なのか定かではないが、この時期、靴下越しでもタイルの冷たさが身にしみる。

 簡単に言うと、靴の履き替え作業ですら俺には酷なのだ。

 

「はぁ…馬鹿なことを言ってないでさっさと履き替えよう」

 

 自分の下駄箱を開け、靴を取り出す。

 と…

 

「あれ?」

 

 ひらり、と封筒が舞い落ちた。

 手にとって見てみると、シンプルな白い封筒にハートのシール。

 宛名は―――相沢祐一様

 

「…おおっ、これはもしかして―――」

 

 俗に言う、ラブレターというやつか。

 貰うのは初めてだが……。

 とりあえず、周囲を見渡す。

 掃除が長引いたので帰宅ラッシュを過ぎたため、辺りに人気は、無い。

 

「ふぅ。こんなところを名雪や香里達にでも見つかったら―――」

 

 財布が空になるか、生きて陽の目を見られなくなるか、笑って祝福されるか――。

 いや、最後のは別にいいか。

 

 

 

「見つかったら―――何なんです?」

 

 

 

「うおうっ!?」

 

 背後から聞こえた上品そうな声に、思わずすくむ俺。

 恐る恐る振りかえると、ちょこんと馴染みの後輩―――天野美汐が立っていた。

 

「なんでここに…」

「この学園の生徒で、ここを通らずに帰宅する人はいませんよ。相沢さん」

 

 ふふふ、と上品な笑みを浮かべる天野。

 ちょっと嫌な予感が頭をよぎる。

 

「――えっと、もしかして……見てたか?」

「はぁ…もしかしなくても、相沢さんがその封筒を貰って嬉しそうにキョロキョロ辺りを見まわしていた事ですか?」

 

 ぐはっ。

 バッチリ見られてるし。

 

「あ――まあ、いいか」

「はい? ところでその封筒――」

「いやこれは。えーっと……」

「果たし状か何かですか?」

 

 ぐき、と腰の骨が曲がる音がしたような気がする。

 

「どうしたんですか? 変な格好で」

「いや、ハートマークのシールの付いた果たし状なんか貰っても絶対行きたくないと思うが」

「あ、ラブレターだったんですか」

 

 ぐはっっ。

 か、語るに落ちたな。俺。

 

 そして、そんな様子を可笑しそうに見つめる天野。

 ……なんか悔しいぞ。

 

「見ないんですか?」

「は?」

「中身。――放課後待ってます、なんて書いてたら待たせちゃ悪いでしょうし」

「あ……そうだな。覗き見るなよ」

「見ませんよ」

 

 

 俺と天野は、ある事件によって知り合った縁のある女の子だ。

 天野は可愛い部類に入ると思うし、昔に比べるとどんどん笑うようになってきた。

 もっと仲良くなりたいとは思っているが、それが恋心だからと思ったことは一度も無い。

 しかし、仲の良い女の子の後輩に、こうも素っ気無く対応されると、ちょっと寂しいものがある。

 

 と――思うのは、俺の贅沢なのだろうか?

 

 そんな事を思いつつ、封を切り、封筒以上にシンプルな便箋を取り出して―――絶句した。

 というか、脱力した。

 

 

 そこには一言。

 とても簡潔な文が記されていた。

 

 

 

 

 『ハズレ』と

 

 

 

 

「? どうしたんですか?」

 

 思わずヘタリこんだ俺に、天野が声をかけた。

 

「いや……見るか?」

「……いいんですか?」

「ああ、ていうかそのまま破り捨てても構わんぞ」

「はぁ………あらら?」

 

 不思議そうな顔をしたあと、天野はちょっと呆けたような顔をした。

 

 ちくしょう、誰だ? こんなイタズラをしたのは。

 と、第一候補として頭に浮かんだのは、頭にアンテナ付けた俺の悪友だった。

 そういえば、先日ヤツの昼飯を無断拝借したことがあったな……それの報復か?

 

 こんな意味も無いことをする人物は、自分以外にはそいつしか見つからなかった。

 ……仕方ない、こちらも報復手段として不幸の手紙でも送ってやるか。

 と考えたが、真っ先に俺宛に来そうなのでやめておく。

 

 はぁ……。

 

 

「ずいぶんガッカリされてますね…」

「いや、そういうわけじゃ―――」

 

 無い、とも言い切れない。

 素直過ぎる自分に―――少し苦笑。

 正直、半分残念半分安堵といったところか。

 そんな俺に、少し思案したあと、天野はにっこりと微笑んで。

 

「まあまあ、相沢さん。私が何か奢ってあげますから」

「おお、流石は先輩想いな天野だなぁ。どっかの馬鹿とは違って」

 

 物に釣られる現金な自分に―――かなり苦笑。

 すっくと立ちあがって出口に向かう。

 慌てて靴を履き替え、追ってくる天野を尻目に、俺は外へ出た。

 

 肌寒い…というか全身を刺すような寒気が吹きつけた。

 だが、まあ――別に抱き合ってる訳でもないが、

 隣に誰か居るだけでも―――ずいぶんと暖かいような気がする。

 追いかけるように横に並んだ天野が、少し意地悪そうな微笑みを浮かべて尋ねてきた。

 

「そういえば……手紙。誰か、アテでもあったんですか?」

「――――。」

 

 無言で俺は雪に足を突っ込むように前進した。

 言えるわけが無い。

 なんだかんだ言って、そのアテの第一候補が隣の少女だったなんて、な。

 

 

 

 

 

「で、結局ここか。てっきり天野のことだから茶店とかに行くと思ったんだが」

「相沢さんが私のことをどういう風に思ってるか分かってますから言わなくていいです」

「いやいや、そんなことはないぞ。そもそもこの商店街に茶店なんかないし」

 

 結局、百花屋の席に座っている俺と天野。

 すっかり通いなれた店内は、それなりに空いていた。

 しばらくメニューを眺めて、店員を呼ぶ。

 

「そうだな…俺はコーヒーと…クッキーでもつまむか」

「私は紅茶とシフォンケーキを……相沢さん、別に遠慮しなくてもいいんですよ?」

「いや、俺はあんまり甘い物は好きじゃないんだが」

 

 それもあるが…意気揚揚と奢られに来てなんだが…やはり後輩の奢りで無差別に食いまくるのもなんだし。

 あんまり食べると秋子さんの晩飯が食えなくなるというのもある。

 

「男の人って、やっぱり甘い物苦手なんですか?」

「いや、俺だって甘過ぎるものとか、過剰に食べるとかしなければ普通に好きだぜ」

「私はけっこう好きですけど…」

 

 とりあえず、それで注文を終え、

 しばらくして焼きあがったクッキーといい香りのするコーヒー、紅茶、シフォンケーキがテーブルに並んだ。

 

「いただきます」

「………」

 

 ご丁寧にテーブルの前で両手を合わせてから食べる天野。

 

「? 私の顔に何かついてますか?」

「いや、わざわざこんなところまできてソレするなんてはじめて見た」

「あ…これはちょっと、癖みたいなものですから。お気になさらず」

 

 そういってケーキをひとかけら口に入れた。

 食べ方1つ1つにも上品を絵に描いたような貫禄というものがある。

 もしかしたら天野は良い所のお嬢様なのかもしれない。

 

 ふと、視線を感じた。

 その先を辿ると、少し離れた席に2人の女子生徒が―――って

 

「(げ……)」

 

 とても良く知った顔がそこにあった。

 片方は大人びた顔立ちに軽くウェーブをかけた髪……こちらをニヤニヤと眺めている。

 もう片方はイチゴサンデーを口に運び幸せそうながらも、どこか眠い顔……はこちらに気付いてない。

 言うまでも無いが―――香里と名雪である。

 

 名雪はグラスを空にしたところで、やっと香里の動向に気付き視線を向ける。

 こちらに気付いたらしく、手を振って寄って―――来ようとしたところで香里に首根っこを掴まれ、そのまま会計を済まして店を出ていってしまった。

 ……妙な気を回されたみたいだな。

 

「……今の方々、お知り合いですか? 何故かこちらを見てたようですけど」

「ああ…従姉妹とクラスメイトだ」

「綺麗な人でしたね」

「何が言いたい?」

「いえ、別に」

 

 意味深にふふふ、と笑う天野。

 そういえば昔、いじわるな婆さんが主役の漫画があったなぁ……と、どうでもいいことが頭に浮かんだ。

 

 

 

「――さて、そろそろ出ましょうか。雪が降ってきそうですし」

「へえ、流石は地元。やっぱり分かるのか?」

 

 一通り皿を空にした俺達は会計をしようと立ち上がった。

 窓を見ると、たしかにそう言われてみれば怪しげな雲……のような気がしないでもない。

 

「いえ。ただの感ですが……私のは結構当たりますよ」

「ま、そういう人もいるか」

「わかりませんよ? もしかしたら私が1000年生きた化け狸かもしれませんし」

「……」

「念の為言っておきますが、信じないでくださいよ?」

「いや…天野って意外にお茶目なんだな」

 

 最近、とみに明るくなってきた天野だが…いろいろな面が発見できる。

 天野は、はたと自分でも少し驚いたようにして―――

 

「そうですね。こんな私、久しく忘れていました」

 

 可笑しそうに、苦笑した。

 なんとなく、それに見とれてしまった俺は、あわてて何時もの台詞を呟いた。

 

「天野なら、きっとお茶目なオバさんになれるぞ」

「なんで20年以上も先の未来を言われてるのか知りたいところですが」

「いや、言葉のアヤだ」

 

 

 

 

「ホントに降ってきたな」

「まだ粉雪ですよ。今のうちに帰りましょうか」

「そうだな……」

「では、私はこちらですので」

 

 百花屋を出たところで、立ち止まった天野は水瀬家と反対方向を見た。

 

「ああ、今日はごちそうさん。次の機会は俺が奢るよ」

「はい。期待してますね」

 

 今頃気付くのも何だが……今日の天野は始終笑顔だったな。

 なんとなく嬉しいような照れるような気がしたが、ふと言い忘れたことを思い出した。

 

「天野」

 

 背を向けた天野に、

 

「ありがとな」

 

 と、言ったら、

 クルリと妖精のように半回転して、天野は、本日最高の笑顔で答えた。

 

 

 

 

 

「いえ。ガッカリさせちゃったお詫び、です」

 

 

 

 

 

END?


■ひまわり組の日常■

 

マサ「兄貴! 大変っす!! さくら組のヤツらが攻めて来やがりました!!」

兄貴「あんだとぉ!? 出入りか!??」

マサ「は、早く組長に伝えないと・・・」

兄貴「馬鹿野郎、それより迎え撃つぞ。オイ、チャカありったけ持って来い!!!」

マサ「へい、兄貴っ!」

 

 ――パン、パン。ドガガガガガガッッッ

 

 マサが地下の武器庫に走ろうとした瞬間、マサは窓から浴びせられる銃弾に屈した。

 兄貴は慌てて死角に回りこんでマサに駆け寄る。

 

兄貴「マサあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!???」

マサ「へ、へへ…兄貴ぃ…ドジっちゃいました…」

兄貴「オイ、しっかりしやがれ!! 傷は浅いぞ!!!」

マサ「俺っちはいいから……兄貴だけでも……逃げ…て…くだ…さい」

兄貴「クソッ、テメエを死なせちまったら、死んだテメエの親父さんに何ていやあいいんだよっっ!!」

マサ「俺っ……兄貴の……舎弟になれて…ホンっと…よかったっす………」

 

兄貴「マサ!? おい……マサあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!???」

 

 

 ―――以上、某所某ビル某日の日常をお送りしました。

七瀬「ちょっと待たんかい。そこの脳味噌発酵体」

 おおっ、アネさん!?

七瀬「誰がアネさんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 ちなみに、マサの親父さんは敵対してる組へ鉄砲玉として特攻し、見事幹部のタマを取って刑務所入り。

 出所後、幹部の椅子に座る前に報復で殺されたという実にどうでもいい裏設定が。

七瀬「ホントにどうでもいいわね。というか何? アンタ、脳味噌の腐食でも進んだの!?」

 失礼な。

 これでも防腐剤は定期的に取り替えてるぞ。えへん。

七瀬「……もういや……アンタ相手にしてると滅茶苦茶疲れる……」

 

 

■ スイートトラップ

 一応、天野美汐誕生日記念SSですが、作中には誕生日という事は一切書かれてません。

 途中までは、美汐が誕生日or先日誕生日だったというネタを使うつもりでしたが……。

 「わたし、今日で結婚できる年なんですよね……実感沸きませんけど」とかいうのもありました。

 でも、美汐が16才の誕生日を迎える時だと、まだ祐一が引越してきてないんで。

 あと、なんかワンパターンなような気がしたので削除です。

 題名は、ごらんの通り。祐一、バッチリ引っかかってます。

 この題名は完成後につけられたんですが…完成前までの仮題が「紅茶を一杯如何です?」でした。

 執筆中にどれほど構想がズレていったか分かってしまいますなぁ……。

 紅茶でどんなネタにする予定だったのか既に覚えてません。

 

 

 ドス振り回して特攻するのって非効率的だよねぇ。いや、任侠映画を批判してるのではなくて。

七瀬「って、まだ引っ張ってんのかアンタはっっ!?」

 というかぶっちゃけ任侠ドラマも映画も見たこと無いんですけどね。

 HA・NA・BIでも借りて見ようかなぁ。

七瀬「あれは任侠っていうか・・・・」

 ワビサビの世界も好きです。もちろんほのラブに勝るものは私的にありませんが。

 長ドスより拳銃ですよね。知的エリート…ファントムオブインフェルノの志賀さんとか。

 まあ学園に長ドスで特攻してツヴァイに瞬殺される名も無きヤクザもいいですけど。

七瀬「また分かり難いネタを…」

 バーチャルネットヘっぽこSS作家雷電はドスに命を賭ける漢を応援しています。

七瀬「するなっっっ!」

 

2002/12/12