こたつの中で


 

 

ふーっ、という吐息。

ロウソクの炎が消えた。

 

 

「誕生日おめでとう、お姉ちゃん♪」

「おめでとう、美凪」

「…ありがとう。みちる、お母さん」

 とある雪の日。

 私は、またひとつ歳をとった。

 去年までは、みちる1人にに祝われてきた日だったけど…今年は母も祝ってくれる。

 そして、私の妹……同じみちるという名前の妹も私の誕生日を祝いに来てくれた。

「ねーねー、早くケーキ食べようよー!」

「あらあら…ちょっと待ってね」

 ケーキを取り分ける母と、それを待っている私の妹。

 母が腕によりをかけて作ったご馳走がコタツの上に乗せられた並んでいる。

「お姉ちゃん、早く食べよ―♪」

「うん…」

 温かい家族の祝福。

 父はこの場にいないけれども、手紙で祝福してくれた。

 私はそれでも嬉しかった。

 

 

 静かな夜。

 夏ならば虫の音が聞こえるけれども、田舎の冬の夜は……とても、静かだった。

 隣で寝入ってしまったみちるを撫でながら、私はサッシ戸の外を眺めていた。

 外は…わずかだけど雪が降っている。

「そういえば…今日は冬至でした」

 太陽が最も弱くなり、日が出る日が短い日…冬至。

 冬至に雪が降ると豊作になるジンクスがあります……農家の皆さんも喜んでいることでしょう。

「冬至と言えば……」

 こたつの上に乗せられたザルの中から蜜柑をひとつ手に取る。

 冬至の日に『ん』のつく食べ物を食べると運がつくという俗信もあります。

 皮を剥いて、一口。

「……ん」

 甘酸っぱくて美味しい……。

 蜜柑を食べつづけながら、ふと、今日1日の出来事を思い出す。

 

 …楽しかった。

 

 大好きな人達、大切な人達に私が私…遠野美凪として祝われて、とても幸せだった。

 そして、そのきっかけを作ってくれたみちるとあの人に最も感謝したい日だった。

「……国崎さん」

 私が1番祝って欲しい人にも祝って欲しかった…そして、感謝したかった。

 夏の日に出会った人。

 不思議で、温かくて、心地よくて、忘れる事が出来ない…。

 

 

 もう1度、サッシ戸の外に目を向ける。

 

 

 でもあの人は、旅の人。

 私も旅の途中で出会ったひとつの通過点に過ぎないのでしょうか?

 今、あの人は何処に居るのだろう?

 今、あの人は何をしているだろう?

 この冬の寒さに凍えてはいないでしょうか?

 ……私の事を、私達の事を、この町の事を覚えているでしょうか?

 

 私の帰るべき場所はここなのに。

 私の居るべき場所はここなのに。

 みちるとあの人のおかげでこんな幸せな場所に居ることが出来るのに。

 私はあの人と共に居ることを1番に望んでいる…。

 

「……夢でもいい」

 国崎さんに会いたい。

 会って想いを伝えたい、もう1度、もう1度会って―――。

 

 

 

 

 

 

「………あ…れ…?」

 ふと気がつけば部屋の電気は消えていて、隣にみちるは居なかった。

 目を凝らして、時計を見ると11時…3時間も経っていた。

 どうやら居眠りをしていたらしい。

「…こたつで寝ると、風邪をひきますね」

 母もみちるも既に寝ているようだ…私も布団に入って寝なおそう。

 

 

 

 

――そう、思った時だった。

 

 

 

 

コンコン。

 

 

「――?」

 サッシ戸をノックする音。

 こんな夜更けに一体…と、慌てて窓を見ると――。

「…え!?」

 嘘だ。

 夢だ。

 だって――。

 

「国崎さん……」

 

 サッシ戸の外には、ここに居るはずの無い…忘れるはずも無いあの人が居るのだから。

 黒いジャンパーを着ている以外はまったく変わっていないあの人が。

「久しぶりだな。遠野……すまんが開けてくれ。寒くてそろそろ死ぬ」

「は、はい…」

 何がなんだか分からないけど…とにかくサッシ戸を開ける。

 ひやりと、真冬の冷たい風が部屋に入りこんだ。

「とりあえず…こたつに」

「お、おおう」

 氷の様に冷たくなってしまった手を取って、こたつに引きずりこむ。

 聞きたいことは沢山あった、言いたい事も沢山あった、これが夢でも幻覚でもいい。

「あの……」

 

 

「っと、ギリギリ間に合ったな。誕生日おめでとう…遠野」

 

 

「…っ!?」

「いや、ホントは昼には着く筈だったんだが、雪の所為で迷ったんだ。雪が積ってると地形が……って、どうした、なんで泣いてる!?」

「…っく…ぇ……っく」

 違います、嬉しくて……たとえ夢でも信じられなくて。

 手渡された小さな四角い包みのプレゼントを胸にかき抱いて。

 私は……泣いた。

 

 

 

「あの、国崎さん…ひとつお願いしていいですか?」

「おう、なんでも言ってみろ」

「私のほっぺた…ぎゅってつねってください」

「…は?」

「では、むぎゅっと」

「いや、擬音の問題ではなくてだな…」

「では…ばぎゅっと」

「……ああ、とにかくつねればいいんだな」

「はい…」

 おずおずと伸ばされたゴツゴツした大きな手…私の頬をむぎゅっとつねると共にじんわりと痛みが走る。

 ――痛い?

 これは…夢じゃない?

「……お、おい。何故また泣く!? 強すぎたか?」

「…ぅ…ひっく……ぅ…」

 少しこたつで暖められたこの手の暖かさは本物で現実だった。

 遠野美凪は、最高の誕生日プレゼントを貰ったのだ。

 そして、私は本日2度目の嬉し涙を流した。

 

 

 

「……ありがとうございます」

「いや…なんか俺が泣かせたみたいだしな」

 私は子供のように、国崎さんに頭を撫でられなだめられていた。

 恥ずかしくもあり…嬉しくもある。

「ありがとうございます」

 国崎さんの目をまっすぐと見て…もう1度…あの日の感謝を伝える。

「……あ、ああ」

「……」

「あのさ…ひとつ聞いていいか?」

「はい」

「…なんでそんなに手を強く握ってるんだ?」

「もう、置いて行かれるのが嫌ですから…」

「……そうか」

 そう言い合って…二人、こたつの中で手を繋ぎつつ、蜜柑を食べた。

 

 

 

 

 

この手…クリスマスが過ぎても、年が明けても放しません。

待つのは、もう嫌ですから。

ずっと、ずっと、繋いで、隣を歩いていっても…いいですか?

 

 

 

 


≪後書き≫

作者「12月22日は遠野美凪の誕生日とゆーことで『こたつの中で』でした」

祐一「今回も即興か?」

作者「なかなかネタがまとまらず、最後にあわてて即興で作ったに近いな」

祐一「冬至であり美凪の誕生日であり夫婦の日であり…結構重なった日だな」

作者「なお『美凪ってこんなキャラだったか?』という苦情は勘弁してください」

祐一「ちなみに後書きも即興なので、ギャグがありません

作者「つまり即興なので、おそらく誤字脱字だらけですが気にしないように

祐一「それはマズイだろ

作者「以上、後書きでした」